「注意したいことはあるが、パワハラと言われないか心配で言えない」「強く叱ったら、部下が萎縮してしまった」。部下への注意や指導に迷う経営者や管理職は増えています。

必要な指導をためらうと、問題が放置され、職場全体の雰囲気や成果に影響します。一方で、伝え方を誤れば、部下を傷つけ、信頼関係を損なうことになりかねません。大切なのは、叱ることそのものではなく、相手の成長につながる伝え方をすることです。

本記事では、パワハラの基本的な考え方を確認したうえで、東洋哲学の叡智『五徳(仁・義・礼・智・信)』を手がかりに、部下への注意・指導のポイントを紹介します。

この記事でわかること

  • パワハラと指導の違い(法律上の基本的な考え方)
  • 五徳で考える、伝わる叱り方・注意の仕方
  • そのまま使える、注意の言い換え例

この記事の結論

パワハラにならない叱り方の基本は、人格ではなく行動を対象にし、理由と期待を伝え、人前を避けて冷静に話すことです。業務上必要で、相当な範囲の指導であれば、ためらう必要はありません。五徳の視点で伝え方を整えると、部下の成長につながる指導になります。

1. パワハラと指導の違い

職場のパワーハラスメント(パワハラ)は、労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)で定められています。事業主には、パワハラ防止のための措置が義務づけられており、中小企業も2022年4月から義務化の対象になっています。

厚生労働省の考え方では、職場のパワハラは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

ポイント

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには当たりません。ためらうべきなのは指導そのものではなく、範囲を超えた言動です。個別の判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

2. 範囲を超えた言動になりやすい例

避けたい言動なぜ問題になりやすいか
「だからお前はダメなんだ」など人格を否定する行動ではなく、人そのものを攻撃している
大勢の前で長時間叱責する必要以上に相手を傷つけ、萎縮させる
過去の失敗を繰り返し持ち出す今の問題の解決につながらない
感情的に怒鳴る、物に当たる恐怖を与え、相手が冷静に聞けなくなる
理由を説明せずに、やり直しだけを命じる何を改善すればよいかが伝わらない

3. 五徳で考える、伝わる叱り方

【仁】相手の成長を願って伝える

叱る目的は、相手を責めることではなく、成長してほしいからです。伝える前に「この指導は、相手のためになっているか」と自分に問いかけましょう。

【義】行動と理由を明確にする

「何が問題だったのか」「なぜ問題なのか」を具体的に伝えます。対象は人格ではなく行動です。「あなたは不注意だ」ではなく、「この資料の数字に誤りがあった」と伝えます。

【礼】場所とタイミングを選ぶ

注意は、できるだけ人前を避け、1対1で行います。また、時間がたつと事実があいまいになるため、できるだけ早いうちに、ただし感情が落ち着いてから伝えましょう。

【智】事実をもとに、冷静に話す

思い込みで叱らないよう、まず相手の話を聞いて事実を確認します。事情を知らないまま叱ると、相手は「分かってもらえない」と感じ、指導が届かなくなります。

【信】期待を伝え、その後を見守る

最後に「あなたならできると思っている」と期待を伝えます。そして、改善したときには必ずそれを認めます。叱って終わりにしないことが、信頼関係を守ります。

4. 注意の言い換え例

これまで「何度言ったら分かるんだ」

見直し後「この手順は、先月も確認したところだね。どこで分かりにくくなっているか、一緒に見てみよう」

これまで「やる気がないなら辞めてしまえ」

見直し後「今日の会議の遅刻で、お客様を10分待たせてしまった。次からどうすれば防げると思う?」

これまで「全部やり直し」

見直し後「この部分の数字が前回と合っていない。ここを直せば、ほかは問題ないよ」

5. 注意・指導の基本ステップ

  1. 事実を確認する(相手の言い分も聞く)
  2. 1対1で、落ち着いて話せる場所を選ぶ
  3. 問題の行動と、それが与えた影響を具体的に伝える
  4. 改善策を相手と一緒に考える
  5. 期待を伝え、改善が見られたら認める

あわせて、会社としての方針や相談窓口を整えておくことも大切です。指導する側も、迷ったときに相談できる先があれば、必要な指導をためらわずに済みます。

まとめ:叱ることは、相手を信じて伝えること

パワハラを恐れて必要な指導を避けることも、感情的に叱ることも、部下の成長にはつながりません。人格ではなく行動を対象にし、理由と期待を伝え、場所を選び、事実をもとに冷静に話す。

五徳の視点で伝え方を整えることが、部下が受け止められる、成長につながる指導になります。

自社を振り返る3つの質問

  1. 最近の注意で、人格ではなく行動について伝えられていたでしょうか。
  2. 叱ったあと、相手の改善を見つけて認めていますか。
  3. 社内に、指導やハラスメントについて相談できる窓口はありますか。

五徳を、自社の経営にどう活かすか。

講演会では、五徳の考え方を部下への指導や信頼関係づくりに活かす方法を、具体的な事例を交えてお伝えしています。


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