「いずれは息子に継がせたいが、まだ任せられる気がしない」「後継者候補はいるが、社員がついてくるか不安だ」。事業承継を考え始めた経営者にとって、後継者の育成は大きなテーマです。

事業承継というと、株式や資産の引き継ぎに目が向きがちです。しかし実際には、経営者が長年かけて築いてきた判断の軸や、社員・取引先との信頼関係を引き継ぐことが、より難しく、時間がかかります。

本記事では、後継者が育たない理由を整理し、東洋哲学の叡智『五徳(仁・義・礼・智・信)』を手がかりに、後継者育成の進め方と、経営者が伝えておきたいことを紹介します。

この記事でわかること

  • 後継者が育たない3つの理由
  • 事業承継で引き継ぐべき「見えない資産」
  • 五徳で考える、後継者育成の5つのステップ

この記事の結論

後継者育成で大切なのは、仕事を少しずつ任せることに加えて、経営者の判断の軸と、社員・取引先との信頼関係を引き継ぐことです。数年単位で計画を立て、現経営者が判断の理由を言葉にして伝え、後継者が自分の言葉で経営を語れるように支えていきます。

1. 後継者育成とは――引き継ぐのは「株」だけではない

後継者育成とは、会社の経営を次の世代に引き継ぐために、後継者が経営者として必要な力と信頼を身につけられるよう支えることです。

引き継ぐもの主な内容
目に見える資産株式、事業用の資産、許認可など
経営の仕組み取引先、業務の流れ、組織体制など
目に見えない資産経営理念、判断の軸、社員や取引先との信頼関係、ノウハウ

目に見える資産は、専門家の力を借りて手続きを進められます。一方、目に見えない資産は、時間をかけて現経営者から後継者へ伝えていくしかありません。

2. 後継者が育たない3つの理由

任せきれず、経営者が判断を手放さない

「まだ早い」と判断を手放さないまま年月が過ぎると、後継者は経営判断の経験を積めません。社員も、最終的には現経営者が決めると考え、後継者を頼らなくなります。

判断の理由が伝わっていない

経営者は、長年の経験から多くの判断を直感的に行っています。その理由を言葉にして伝えなければ、後継者は結果だけを見て、同じ判断ができるようにはなりません。

後継者自身の軸が育っていない

先代のやり方をそのまま引き継ぐだけでは、環境が変わったときに判断できません。後継者が自分なりの考えを持ち、自分の言葉で会社の未来を語れることが必要です。

3. 五徳で考える、後継者に伝えたいこと

五徳後継者に伝えたいこと伝え方の例
仁社員や顧客への思いやり社員一人ひとりの事情や、顧客との関係の歴史を語る
義譲れない判断の軸過去に「断った仕事」とその理由を共有する
礼取引先・地域との関係主要な取引先を一緒に訪問し、関係を引き継ぐ
智事業の強みと課題数字の見方、業界の変化、自社の強みを一緒に分析する
信約束を守る姿勢現経営者が後継者との約束を守り、任せた判断を尊重する

ポイント

特に大切なのは、「何をしてきたか」より「なぜそう判断したか」を伝えることです。判断の理由が分かれば、後継者は状況が変わっても、自分で考えられるようになります。

4. 後継者育成の5つのステップ

  1. 承継の時期と計画を決める:何年後に、どの段階で何を引き継ぐかを書き出す。
  2. 現場と管理の両方を経験させる:複数の部署を経験し、社員の仕事や会社全体の流れを知る。
  3. 判断の場に同席させる:経営会議や取引先との交渉に同席させ、判断の理由をあとで説明する。
  4. 一部の判断を任せる:特定の事業や部門の責任者として、判断と結果に責任を持つ経験を積ませる。
  5. 社内外に方針を示す:後継者が経営を担うことを社員や取引先に伝え、現経営者は一歩引いて支える。

例えば、承継まで5年を見込む場合、最初の2年で現場と管理部門を経験し、3年目から経営会議に参加、4年目に一つの部門の責任者として判断を任せ、5年目に社内外へ承継を発表する、といった計画が考えられます。

期間や順番は会社によって異なりますが、計画を言葉にして後継者と共有しておくことで、お互いの期待のずれを防げます。

5. 現経営者が気をつけたいこと

  • 任せたら口を出しすぎない:社員の前で後継者の判断を覆すと、後継者の立場が弱くなります。意見は1対1で伝えましょう。
  • 失敗を経験として受け止める:経営判断の失敗は、後継者にとって大切な学びです。致命的でない失敗は、見守ることも必要です。
  • 専門家の力を借りる:株式や税金、法律の手続きは、税理士や弁護士などの専門家に早めに相談しましょう。

まとめ:後継者育成は、経営者の想いを次へつなぐ仕事

後継者育成は、仕事を引き継ぐだけでなく、経営者が大切にしてきた判断の軸と信頼関係を次の世代へつなぐことです。計画を立て、経験の場を用意し、判断の理由を言葉にして伝え、任せて見守る。

五徳の視点で「何を伝えるか」を整理することが、後継者が自分の言葉で経営を語れるようになる近道です。

自社を振り返る3つの質問

  1. 後継者に、何年後に何を引き継ぐかを言葉にして伝えていますか。
  2. 最近の経営判断について、その理由を後継者に説明しましたか。
  3. 後継者に任せた判断を、社員の前で覆したことはありませんか。

よくある質問

後継者育成にはどのくらいの期間が必要ですか?

会社の規模や後継者の経験によって異なりますが、数年単位で考えるのが一般的です。早めに計画を立て、段階的に経験を積ませることが大切です。

後継者に何を教えればよいですか?

業務の知識に加えて、経営理念や判断の軸、社員・取引先との関係といった目に見えない資産を伝えることが大切です。特に「なぜそう判断したか」という理由を言葉にして伝えましょう。

後継者が社員に認められるにはどうすればよいですか?

現場を経験して社員の仕事を知ること、一部の判断を任されて結果を出すことが大切です。現経営者が後継者の判断を尊重し、社員の前で覆さない姿勢も欠かせません。

五徳を、自社の経営にどう活かすか。

講演会では、五徳の考え方を後継者育成や事業承継に活かす方法を、具体的な事例を交えてお伝えしています。


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